Monday, April 25, 2016

新古今集(春歌上1)

新古今集の春歌(上)の98首のうちのまずは50首.
57577のリズムはほぼそのままに,
意味が通じやすいように現代的に訳してみました.


1
み吉野は山も霞みて白雪のふりにし里に春は来にけり
美吉野は山さえ霞み 白雪がふった里にも春の訪れ

2
ほのぼのと春こそ空に来にけらし天の香具山霞たなびく
ほのぼのと春は空に来たらしい 天の香具山霞たなびく

3
山深み春とも知らぬ松の戸にたえだえかかる雪の玉水
山の深み 春を気付かぬ小屋の戸に たえだえかかる雪解けの水

4
かきくらしなほふるさとの雪のうちに跡こそ見えね春は来にけり
暗くなり なお古里にある雪道に 跡見えずとも春の訪れ

5
けふといへばもろこしまでもゆく春を都にのみと思ひけるかな
時来たと思えばどこへも行く春を ここにのみ来たと思ってしまった

6
春といへば霞みにけりな昨日まで波間に見えし淡路島山
立春というから霞んだものだな 昨日はあった淡路島山

7
岩間とぢし氷も今朝はとけそめて苔のした水道求むらむ
岩つなぐ氷も今朝はとけはじめ 苔下の水 道求め行く

8
風まぜに雪は降りつつしかすがに霞たなびき春は来にけり
風にまぜ雪が降りつつとは言っても 霞たなびき 春の訪れ

9
時は今は春になりぬとみ雪降る遠き山辺に霞たなびく
時告げるもう春だよと 雪が降る遠い山にも霞たなびく

10
春日野の下もえわたる草の上につれなく見ゆる春の淡雪
春日野に一面萌え出る草の上 そしらぬ顔の春名残雪

11
あすからは若菜摘まむとしめし野にきのふもけふも雪は降りつつ
明日から若菜摘もうと縄張れど 昨日も今日も雪は続いて

12
春日野の草はみどりになりにけり若菜摘まむとたれかしめけむ
春日野の草は緑になったものだ 若菜摘むのか誰かのしるし

13
若菜摘む袖とぞ見ゆる春日野の飛火の野辺の雪のむら消え
若菜摘む袖と見えるか 春日野のその飛火野の雪の斑消え

14
ゆきて見ぬ人もしのべと春の野のかたみに摘める若菜なりけり
行かず見ぬ人も偲べと 春の野のかたみに摘んだ若菜だったか

15
沢に生ふる若菜ならねどいたづらに年をつむにも袖は濡れけり
沢に生える若菜でないが 徒らに年をつむ 袖涙に濡れて

16
さざ波や志賀の浜松ふりにけりたが代に引ける子の日なるらむ
さざ波や 志賀の浜辺の老いし松 どの代に曳いた子(ね)の日の松か

17
谷川のうち出づる波も声立てつ鶯さそへ春の山風
谷川の薄氷割れて波の声 鶯誘え春の山風

18
鶯の鳴けどもいまだ降る雪に杉の葉白き逢坂の山
鶯が鳴いても未だ降る雪に 杉の葉白き逢坂の山

19
春来ては花とも見よと片岡の松の上葉に淡雪ぞ降る
春来たら花を見ろよと 片岡の松の頭に淡雪が降る

20
巻向の檜原のいまだ曇らねば小松が原に淡雪ぞ降る
巻向の檜原は未だ曇らずに 小松が原は淡雪が降る

21
今さらに雪降らめやもかげろふのもゆる春日となりにしものを
今さら雪は降らぬだろう 陽炎の燃える春の日となったのだから

22
いづれをか花とはわかむ古里の春日の原にまだ消えぬ雪
白梅か雪か見分けよう 春日野の原に未だ消え残る雪

23
空はなほ霞みもやらず風さえて雪げに曇る春の夜の月
すっかりとは霞みもせずに 風も冴え 雪かと曇る 春の夜の月

24
山深みなほ影寒し春の月空かき曇り雪は降りつつ
山深く寒く射し込む春の月 空かき曇り雪がよく降る

25
三島江や霜もまだひぬ蘆の葉に角ぐむほどの春風ぞ吹く
三島江や 霜も乾かぬ蘆の葉に 芽が出るほどの春風が吹く

26
夕月夜潮みちくらし難波江の蘆の若葉に越ゆる白波
夕月夜 潮満ちるらしい 難波江の蘆の若葉に覆う白波

27
降りつみし高嶺のみ雪とけにけり清滝川の水の白波
降り積んだ高嶺の雪は解け果てた 清滝川の水の白波

28
梅が枝にものうきほどに散る雪を花ともいはじ春の名だてに
梅の枝に もの憂いほどに散る雪を花と言うまい 春の名誉に

29
あづさ弓はる山近く家居してたえず聞きつる鶯の声
あづさ弓 春山近くに住みこめば 絶えず聞けるか 鶯の声

30
梅が枝に鳴きてうつろふ鶯の羽白たへに淡雪ぞ降る
梅の枝に鳴きつつ移ろう鶯の 羽根も白く 淡雪が降る

31
鶯の涙のつららうちとけて古巣ながらや春を知るらむ
鶯の凍れる涙もうち解けて 古巣にいても春に気付くか

32
岩そそく垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかな
岩穿つ滝水かかる若わらび 萌え出る春になったようだ

33
天の原富士のけぶりの春の色の霞にたなびくあけぼのの空
天の原 富士の煙が春色の霞となってたなびく曙

34
朝靄深く見ゆるやけぶり立つ室の八島のわたりなるらむ
朝靄が深く見えるは 煙立つ室の八島の辺りだろうか

35
なごの海の霞のまよりながむれば入る日を洗ふ沖つ白波
なごの海 霞の隙を眺めれば 入り日を洗う沖の白波

36
見わたせば山本霞む水無瀬川ゆふべは秋と何思ひけむ
見渡せば山麓霞む水無瀬川 夕なら秋だと何故思った

37
霞立つ末な松山ほのぼのと波に離るる横雲の空
霞立つ末の松山ほんのりと 水平線から離れる横雲

38
春の夜の夢の浮橋とだえして峰に別るる横雲の空
春の夜の浮橋のような夢途絶え 峰に別れる横雲の空

39
知るらめや霞の空をながめつつ花もにほはぬ春を嘆くと
知っているか 霞の空を眺めつつ 梅の匂わぬ春を嘆くと

40
大空は梅のにほひに霞みつつ曇りもはてぬ春の夜の月
大空は梅の匂いに霞みつつ曇りもしない 春の夜の月

41
折られけりくれなゐにほふ梅の花けさ白たへに雪は降れれど
手に取れた 紅鮮やかな梅の花 今朝真白に雪は降ったが

42
あるじをばたれとも分かず春はただ垣根の梅を尋ねてぞ見る
誰の家とも気にせずに 春はただ垣根の梅をたずね眺める

43
心あらば問はましものを梅が香にたが里よりかにほひ来つらむ
心あるなら問うてみたい、梅の香に 誰の里より来ているのかと

44
梅の花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ
梅の花 匂いを送る袖の上に 軒から洩れる月光が争う

45
梅が香に昔を問へば春の月答へぬ影ぞ袖にうつれる
梅の香に昔を問えば 春の月 答えぬ光は袖に映る

46
梅の花たが袖ふれしにほひぞと春や昔の月に問はばや
梅の花 誰の袖が触れた匂い 古来の春月に尋ねたい

47
梅の花あかぬ色香も昔にておなじ形見の春の夜の月
梅の花 飽きぬ色香も昔のまま 同じ形見の春の夜の月

48
見ぬ人によそへて見つる梅の花散りなむのちのなぐさめぞなき
会えぬ人 あなたと重ねる梅の花 散ったら後の慰めなくす

49
春ごとに心をしむる花の枝にたがなほざりの袖かふれつる
春毎に 心を占める梅の枝に 誰かのいい加減な移り香

50
梅散らす風も越えてや吹きつらむかをれる雪の袖な乱るる
梅散らす風も頭上を吹いたのか 香れる雪が袖に乱れる

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