Saturday, May 7, 2016

新古今集(春歌上2)

新古今集の現代化
春歌(上)の98首のうちの残りの48首



51
尋め来かし梅盛りなるわが宿をうときも人は折にこそよれ
来てください 梅が盛りのわが家に 疎遠になるも時節踏まえて

52
ながめつるけふは昔になりぬとも軒端の梅はわれを忘るな
眺め入る今日は昔になろうとも 軒端の梅は我を忘るな

53
散りぬればにほひばかりを梅の花ありとや袖といふことをよ
散ってなお匂いを残す梅の花 まだあるかと袖に吹く東風

54
ひとりのみながめて散りぬ梅の花知るばかりなる人は問ひ来ず
ひとりだけ眺めて散った梅の花 君を理解する人訪ねず

55
照りもせず曇りもはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしくものぞなき
照りもせず隠れもしない春の夜のおぼろ月夜にかなうものなし

56
あさみどり花もひとつに霞みつつおぼろに見ゆる春の夜の月
浅緑 花とひとつに霞みつつ 朧に見える春の夜の月

57
難波潟霞まぬ波も霞みけりうつるも曇るおぼろ月夜に
難波潟 霞まぬ波も霞んだか 写るも曇る朧月夜に

58
今はとてたのむの雁もうちわびぬおぼろ月夜のあけぼのの空
時来たと田の面の雁も辛く鳴く 朧月夜の曙の空

59
聞く人ぞ涙は落つる帰る雁鳴きてゆくなるあけぼのの空
聞く側が涙を落とす 帰る雁鳴いて去り行く曙の空

60
古里に帰る雁がねさ夜ふけて雪路にまよふ声聞こゆなり
古里に帰り行く雁 夜更けて雪路に迷う声が聞こえる

61
忘るなよたのむの沢を立つ雁も稲葉の風の秋の夕暮れ
忘れるな 田の面の沢を発つ雁も 稲葉の風の秋の夕暮れ

62
帰る雁今はの心有明に月と花との名こそ惜しけれ
帰る雁 いざ発つ心止められず 月と花への汚名を嘆かむ

63
霜まよふ空にしをれし雁がねの帰るつばさに春雨ぞ降る
霜を置く雲に萎れた雁の羽根 帰る翼に春雨が降る

64
つくづくと春のながめのさびしきはしのぶに伝ふ軒の玉水
ぼんやりと春長雨の淋しさは 忍草への軒の玉水

65
水の面にあや織りみだる春雨や山のみどりをなべて染むらむ
水の面にあや乱れ織る春雨や 山の緑を染めるだろうか

66
ときはなる山の岩根にむす苔の染めぬみどりに春雨ぞ降る
常盤なる山の岩根にむす苔の緑染めぬも誇る春雨

67
雨降れば小田のますらをいとまあれや苗代水を空にまかせて
雨降れば百姓男は暇にして 苗水やりを空に任せて

68
春雨の降りそめしより青柳の糸のみどりぞ色まさりける
春雨が降り始めてから 青柳の糸の緑が色濃く染まり

69
うちなびき春は来にけり青柳の陰踏む道に人のやすらふ
うちなびき 春の訪れ 青柳の木陰踏む道 人々憩う

70
み吉野の大川の辺の古柳蔭こそ見えね春めきにけり
み吉野の大川の辺の古柳 蔭を成さぬも春めくいぶきよ

71
あらし吹く岸の柳の稲筵おりしく波にまかせてぞ見る
嵐吹く 柳は川面に稲むしろ 織り敷く波にまかせて見える

72
高瀬さす六田の淀の柳原みどりも深く霞む春かな
舟留まる六田の淀の柳原 緑も深く霞む春かな

73
春風の霞吹きとく絶えまより乱れてなびく青柳の糸
春風が霞吹き解く解け目より 乱れてなびく青柳の糸

74
白雲の絶えまになびく青柳の葛城山に春風ぞ吹く
白雲の絶え間になびく青柳 葛城山に春風が吹く

75
青柳の糸に玉ぬく白露の知らず幾代の春か経ぬらむ
青柳に通した玉のごとき露 幾代の春を経たといのか

76
薄く濃き野辺のみどりの若草に跡まで見ゆる雪のむら消え
薄く濃き野辺の緑の若草に 跡まで見える雪の斑消え

77
荒小田の去年の古跡の古よもぎ今は春べとひこばえにけり
荒れ田んぼ 去年の古株の枯れよもぎ 今は春だとひこばえ芽吹く

78
焼かずとも草は萌えなむ春日野をただ春の日にまかせたらなむ
焼かずとも草は萌えるよ 春日野をただ春の日に任せてほしい

79
吉野山さくらが枝に雪散りて花遅げなる年にもあるかな
吉野山 桜の枝に雪散って 開花遅そうな年になりそう

80
桜花咲かばまづ見むと思ふまに日数経にけり春の山里
桜花咲いたら見ようと思う間に日数経ったよ 春の山里

81
わが心春の山辺にあくがれてながながし日をけふも暮らしつ
我が心 春の山辺に誘われて 永い時間を今日も暮らした

82
思ふどちそことも知らず行き暮れぬ花の宿貸せ野辺の鶯
気の合った同士漫ろに行き暮れた 花の宿貸せ 野辺の鶯

83
いま桜咲きぬと見えて薄曇り春に霞める世のけしきかな
今桜咲いたと見えて薄曇り 春に霞める世の景色かな

84
臥して思ひ起きてながむる春雨に花の下紐いかに解くらむ
寝て思い起きて眺める春雨に 花の下紐いかにほころぶ

85
行かむ人来む人しのべ春霞立田の山の初さくら花
行く人も来る人も慕え 霞立つ立田の山の初桜花

86
吉野山こぞのしをりの道変へてまだ見ぬ方の花を尋ねむ
吉野山 去年目印の道変えて まだ見ぬ方の花を尋ねよう

87
葛城や高間の桜咲きにけり立田の奥にかかる白雲
葛城の高間の桜咲いたみたい 立田の奥にかかる白雲

88
いそのかみ古き都を来て見れば昔かざしし花咲きにけり
いそのかみ 奈良の都に来てみれば 古人飾った花咲いている

89
春にのみ年はあらなむ荒小田をかへすがへすも花を見るべく
一年中春だけあれよ 荒田んぼ耕しながら花を見たいよ

90
白雲の立田の山の八重桜いづれを花と分きて折りけむ
白雲の立田の山の八重桜 どちらを花と見分けて折ったか

91
白雲の春は重ねて立田山をぐらの峰に花にほふらし
白雲が春は重ねて立田山 小按の峰に花鮮やかに

92
吉野山花やさかりににほふらむ古里さえぬ峰の白雪
吉野山花満開に咲いてるか 吉野寒からず峰の白雪

93
岩根踏み重なる山を分けすてて花も幾重のあとの白雲
岩を踏み重なる山を分け捨てて花も幾重の後の白雲

94
尋ね来て花にくらせる木の間より待つとしもなき山の端の月
尋ね来て花見て過ごした木の間より 待ってた訳なく山の端の月

95
散り散らず人も尋ねぬ古里の露けき花に春風ぞ吹く
散ったのか人も尋ねぬ古里の露置く花に春風が吹く

96
石上(いそのかみ)布留野のさくら誰植ゑて春は忘れぬ形見なるらむ
石上布留野の桜 誰植えて春忘れない形見なのだろう

97
花ぞ見る道の芝草踏み分けて吉野の宮の春のあけぼの
花を見る 道の芝草踏み分けて 吉野の宮の春の曙

98
朝日影にほへる山の桜花つれなく消えぬ雪かとぞ見る
日に映える色鮮やかな山桜 すまし顔で残雪かと見える

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