言い当てる言葉
「初めて聞いたけど,その言葉どういう意味?」
相手の知らない単語をどう説明しようかと困ることはないだろうか.
たとえば,異言語・異文化の友達と話すとき.
リスという単語をどう説明できるだろう?
無垢といった掴みどころのない概念は然ることながら,
平凡で当たり前な単語こそ,頭に言葉の準備がないものだ.
そんなときどうすればいいだろう?
そうした事態への心構えのために,
相手が知らない単語を説明する方法について紹介しよう.
ありがちな失敗は,
あれこれ言おうとして却って言葉に詰まることだ.
リスを「小さい動物で,大きい尻尾で,ヒマワリの種を食べる」と
直ぐに説明できればまだいい.
でも,誰にでも似た経験があるように,
シマリスやハムスターとの違いにも気を付けて...
何をどの順でどんな言葉で言うべきか...
といった具合に迷ってしまうこともありがちだ.
言葉に詰まってしまうのには,2つの理由が浮かぶ.
まず,言葉の厳密性にとらわれていること.
これは意識の問題だから,よくよく注意する必要がある.
そうして本稿の主題に関わるもう一つは,
辞書的な説明の仕方にとらわれていること.
辞書的な説明への固執は,
様々な説明の仕方を知っておけば回避しやすくなる.
言葉の説明とは言葉の定義に他ならない.
そこで以下本稿では,
言葉の定義には様々なやり方があることを紹介する.
言葉の説明=定義の仕方は,
「演繹的」と「帰納的」に大別できるだろう.
ここで,演繹的・帰納的とは法則体系をつくるときに使う言葉であり,
定義とはそぐわないと考える人もいるかもしれない.
だがそれは,数学や物理で使う狭義の定義だけを思い浮かべるからだ.
以下では,定義とはいい難いものも含めたが,
それらも含め様々な定義や説明の仕方があることを確認しよう.
以下,
「Highly Sensitive Person(HSP)」を説明する方法
を例として挙げてみよう.
注:以下の例はどれも正式なHSPの定義ではなく,あくまで説明例です.
各説明の間には矛盾がある場合もあります.
(1)法則・規則・条件から具体例を思い浮かばせる(演繹的)
1.万人が共通に納得できる普遍的な特徴を述べる(内包的・概念的)
「生まれながらに高い感覚感受性、共感性、過度の興奮のしやすさ、深く考えようとする傾向を持つ人のこと」
※一部の重要な特徴を述べる(実質的・概念的)こともできる
「並外れて敏感なため、感受性が豊かな一方、ストレスを生まれながらに感じやすい人」
2.発生過程や構成により特徴づける(発生的・構成的)
「神経が高ぶりやすい気質を持った親から生まれ、情緒不安定または子育てに無関心な親に育てられ、刺激に対して身体的・精神的に疲れやすい傾向を示すようになった状態にある人」
3.お決まりのものとして述べる(唯名的・規約的)
「ここでは、感覚が鋭すぎて生きづらさを感じている人をHSPと差し当たりよぶことにします」
「ある種の敏感な人はHSPと名付けられているのです」
4.測定できる特徴的な応答を述べる(操作的)
「自己診断項目のうち14項目にチャックがつけば差し当たりHSPとみなします」
「感覚的な刺激に対してストレスホルモンの分泌量が、平均より上昇しやすく平常化しにくい統計的に有意な傾向を示す人をHSPとみなします」
5.反対の概念を示す(反対語)
「感覚的刺激を何とも感じない人の反対概念です」
(2)特殊な事例から抽象的概念を浮き彫りにする(帰納的)
1.例を示す(外延的)
「神経学的過敏性の人や、心理社会的過敏性の人や、病理的過敏性の人」
「音に過敏な人、光や色に過敏な人、・・・」
「夏目漱石とか、ダリとか、・・・」
2.それを想起させる他の語句を示す(類語・同義語・アイコン)
「内向的な人、繊細な人というか」
「ほら、あのアーロンの...!」
3.矛盾なく説明できる仮説を想起させる特徴を示す(アブダクション)
「歴史上の偉大な発見や芸術の多くは、HSPが生み出してきましたといっても過言ではないでしょう」
「HSPがいれば、小さな変化を察知でき、人類は危機を回避できるでしょう」
4.消去法
「鈍感な人やHigh Sensation Seeking(HSS)型の人ではない人のことです」
5.相対的な位置づけを示す(対位的・対義語)
「アーロンが見出した中で最も主要な概念です」
「High Sensation Seeking(HSS)と対になる概念です」
「よくHSSとともに語られています」
6.個人的な確信を述べ、相手の経験との擦り合わせを狙う(内省的)
「ある人はHSPを何でも気にしすぎて疲れてしまう人だと言い、またある人は芸術的な才能を持った人と言っています」
様々な定義の方法があることを意図で,
必ずしもうまくない例もあることを断っておく.
伝わりやすさも求めるなら,
(1)と(2)を組み合わせて手短に示すと効果的だ.
つまり,大きな枠組みを与えた上で,具体例を示すとわかりやすい.
たとえば,こんな具合である:
たとえば,カフカもHSPだったと言われています.彼は絶望的なほどの感覚の鋭敏さに苦悩していましたが,その感受性を文学に向け優れた作品を多く残しました.
このようなHSPの概念は精神分析学者エレイン・アーロンが1996年に提唱しました.」
もっとも,誰でも最初に思いつくように,
非言語的に説明しようとする方法もある.
身体や事物を使って表現する方法だ.
たとえば,
・現物・イラストを見せる(指示的)
・手などで特徴的な形を示す(暗示的)
・モノマネ・声帯模写をする(暗示的)
・それを想起させるアイコニックな動作をする(暗示的)
(「お化け」⇒怯える動作,ドロンと言うなど)
など
また,以下のような無意味な説明の仕方も考えられる.
これらは説明の切っ掛けづくりとしても不十分である.
これらを自覚的に知っておくことも,
説得力のある説明をする上で役立つこともあるだろう.
・曖昧・大雑把
「HSPとは一部の人間のことです」
・循環的・再帰的・トートロジー
「HSPとは高度な感受性のある人です」
「HSPとはアーロンが初めて明示的に使ったHSPを指す語句です」
・情緒的
「ああ、HSP、それは人類にとってのカナリヤだ」
・説得的すぎる
「HSPとは先鋭的な感覚を宿した人財です」
・婉曲的すぎる(関連語・縁語・枕詞・序詞・掛詞・駄洒落)
「瓶・缶」
以上
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